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【小説】セーフティネット

某所における夏祭り企画用に書いたものの規定枚数に満たなかった作品です。
かなり急いで書いた覚えがあるので、よくわからない話になっています。
いつか改良して再掲載したいものです。








【セーフティネット】
 

 パン職人の朝は早い。昨晩仕込んだパン生地を「お客さんが来る前に」全て焼いてしまわなければならないからだ。
 食パンからフランスパン、菓子パンに至るまであらゆる種類のパンを店頭に並べ終えたところで、パン職人は少し休憩する。焼いたパンの一部をかじったり、粉末の味噌汁を飲んだりして開店時間ぎりぎりまでゆっくりする。
「店長さん、おはようございまーす」
 ここで店頭販売を司るアルバイトちゃんの登場だ。新聞配達、ティッシュ配り、呼び込み――まだ高校生だというのに、いくつも仕事をかけ持ちしているという彼女は、パン職人にとって多いに庇護欲をそそる存在であった。子供として、もしくは女として、パン職人は彼女をいつまでも抱きしめたいと常々思っていた。
「店長」
「なんだい」
 右肩に担いでいた生徒カバンをするりと床に落としたアルバイトちゃんは、おもむろに妖しい雰囲気を醸し出し始めた。目を細め、唇も細め、ぬっとした様子で自らへと近寄る彼女に、パン職人は朝から欲情を覚えた。
 アルバイトちゃんは目を閉じ、爪先で立ち、背の高いパン職人の耳に白い吐息を当てながら、こんな言葉を紡いだ。
「死んでもらおうか安田智也」
 パン職人は目をひん剥いた。そしてゴキブリのような細かい足取りで後ずさった。悲鳴にならない息を歯の隙間から噴射しながら、パン工場と店舗の間にある引き戸をカラカラと鳴らし、工場へ入ってから引き戸を戻して鍵を閉めてアルバイトちゃんを一瞥してからダァーッと逃げて逃げて逃げまくった!
 そのパン職人が俺だ! そしてリアルタイムで逃げている!
「何なのよ朝から……」
 階段を勢い良く登ったところで妻に出くわした。事情を簡潔に説明すると「またなの……もう、面倒ねえ」と呆れた表情でタンスの中から短い木刀を取り出してくれた。
 そして階段を登ってきたアルバイトちゃんを一閃、木刀の柄で敵のおでこをバチコーンと吹き飛ばした妻は、体勢を崩したアルバイトちゃんに蹴りを入れ、必死で手すりをつかみ、落ちまいとするアルバイトの両手を木刀でゲシゲシと叩きながら「ほーれほーれ」と笑っていた。俺は少し怖かった。
 最後は股間に一撃を加えられたアルバイトちゃんが悶絶しながら奈落に落ち、彼女がガッシャーンと壁にぶつかった音は戦いの終わりを予感させるに十分な迫力をもっていた。
 出来の良い息子による110番通報、遠方から道路を進みやってくる赤い回転灯と心地よい警音。
 こうして、俺・安田智也と彼女・淀屋肇元死刑囚の4度目の戦いは幕を降ろしたのだった。

 そしておそらく、次の5度目が最後の戦いになるだろう。
 この俺に、呪われた人生を歩んできたこの俺に、ようやく回復の時が近づいてきたのだ。ようやく解放日が巡ってきたのだ。
 もちろん最後の最後まで用心する必要がある。愛する妻にはアイスクリームでもプレゼントしておくとしよう。妻がいなければ今日まで生きてこれなかったはずだ。
 そんなことを考えながら、俺は大阪府警の警官2人に羽交い絞めされた「彼女」をゆっくりと眺めていた。
 艶やかに流れる黒髪。
 利発的で整った顔立ち。
 そしてなめらかな腰から尻へのライン。
 可愛いのになあ。なんでアイツはいちいち俺の好みを突いてくるんだろうなあ。



 俺はパン職人だ。
 ただただ毎日パンを焼き、それを売っている。日曜日以外はずーっとパンの近くにいる。
 しかも最近になってアルバイトの店員を失ったため、俺は今まで以上にパンと触れ合うことになってしまった。店頭から工場から大忙しである。アイツが工場へと侵入するためにぶち破ってくれた仕切りのドアはもはや無用の長物と化したため、修理する予定は一切ない。あんなものは店舗と工場を行き来する障害でしかないからだ。ああ忙しい。
 そんな俺に朗報が入った。
 アルバイト希望の女の子がやってきたのだ。
 彼女は黒い長髪をシュシュでくくりポニーテールを形成していた。これは俺の審査ポイントに大きく響いた。顔立ちもかなり好みだった。何より人手不足なのでなりふり構っていられなかったのもあるが、俺はすぐに採用を宣言した。
「あ、住友さおりです。紋別高校2年です。よろしくお願いします、安田さん」
「そうですか」
 可愛らしい名前だった。いつか下の名前で呼んでみたいな、なんて思ったりもした。
 学校帰りに募集に来た彼女は担いでいたカバンを床に降ろし、大きく背伸びをした。そしてにこやかな笑顔でこう言った。
「まあ、ぶっちゃけ淀屋だけどな」
「……え」
「もう5回目だろ? 次は無いかもしれないし、最後くらい正体ばらしてから殺しにかかってやろうと思ってさ」
 淀屋と名乗る少女は店の端にあるカウンター席のイスを勝手に奪い、ちょこんと座った。そして右手をひょいひょいさせ俺を誘った。どうやら座れとのことらしい。
 2者が対面し、少し経ってから淀屋はおもむろに思い出話を始めた。俺も知っている、むしろ俺と淀屋と妻ぐらいしか知らない、全ての始まりの話を、何かの総括のために始めるようだった。
「お前が普通免許とって、初めてのドライブで僕の母さんを轢き殺してからもう20年だよな。僕は怖ろしいことに女子高生なんかになっちまってるけど、それに比べてお前は老けたなあ」
「うるさいよ」
 どうでもいいがボクっ娘というのもなかなか良いような気がしてきた。恨みと贖罪意識のイメージしかない淀屋だがこれだけはグッジョブだ。
 淀屋は話を続ける。俺にとって聞く必要もなければ聞きたくもない話を遠慮なく続ける。
「その日の内に僕はお前を刺した。それはもうメッタ刺しにしてやった。よく生きてたもんだよ。誰かに通報されて血まみれの僕も瀕死のお前も捕まって、結局それぞれぶち込まれた。僕は20年、お前は7年。模範囚か何かで判決の決定よりは早く出られたよな、これもお互いに」
「ああ」
 あの時は本当に死ぬかと思った。なにより目の色を変えて襲ってくる親友の顔が、そして何となく殺されても良いと思えたあの一瞬が怖かった。人殺しは死んで当然とか、今まで思ってた常識が自分のこととなると怖くて仕方がなかった。まだ死にたくなかった。恐怖した。
 淀屋は勝手に近くの棚からメロンパンを奪い、ぱくっと口に入れてもくもくした。仕草がいちいち可愛らしい。まさしく犯罪的だ。
「で、僕より早く出れたお前はパン屋に弟子入りして社会復帰を目指した。僕はどうしたかといえば、この時が法令上の『一度目の襲撃』だったよな?」
「そうだよ」
 コイツは出所して早々、人づてにパン屋にやってきて、俺を再び切り裂いた。この時は何とか逃げることができたがとにかく痛かった。腕から出る血の量が半端ではなく、失血死するかと思った。
 淀屋は俺の顔を見てニタニタ笑っていた。俺の本当の意味で痛々しい思い出を笑っているのだ。
「まあまあ、そう怒るなよ。再犯で、しかも止めにかかったお前の師匠まで傷つけた。挙句の果てにその師匠さんの嫁さんまで傷つけちまった。どちらも重傷で、あの時僕は死刑を本気で危惧したよ……ところがどっこいだ」
「ああ、本当にところがどっこいだな」
 俺はあの時運命を恨んだ。
 あの事件が起きた時はちょうど衆議院の総選挙が終わったころで、我が国では4年ぶりの政権交代が行われた。新しく日本国の首相となったのは大宮芙紗子、日本初の女性総理だった。彼女の出身政党は社会主義系で、その党は命を大事にする政策を掲げていた。
 淀屋は自嘲気味に言う。
「あのオバサンがなあ、僕をこんな姿にしてくれてんだよなあ。『死刑囚・重犯罪者にも社会復帰のチャンス』だっけ?」
「ああ。国が誇る最新鋭の細胞技術やら遺伝子技術とやらを駆使して、死刑囚を今までとは全く違う姿にしてやり『次の人生』を歩ませるとかいう奴だよ」
 その夢のような政策は実行され、淀屋は身体を改造された。
 それからというもの、淀屋は俺を襲撃しては捕らえられ、また姿を変えてを繰り返した。
 俺が妻兼用心棒と結婚してからは色仕掛けも使うようになり、様々な策を用いては俺を油断させ、そのスキに殺そうとした。もちろん全てなんとかなったからこそ、俺は今ここにいる。
 ちなみにさすがに批判を浴びたため再犯も5回目を過ぎると新制度の適応外となり、死刑はなくても死ぬまで刑務所に放り込まれる。だから5回目が「最後の戦い」なのだ。
 淀屋は2つ目のメロンパンに手を出した。俺は近くにあったフランスパンで淀屋の手を叩く。
「け、ケチ!」
「うるさいわ泥棒風情が」
 しょんぼりした様子で手を引く淀屋。涙なんか浮かべやがって、思わず店中のパンを差し上げたくなっちまったじゃないか。
 さっき食べたメロンパンの残骸をスカートから拾い集め、貧乏くさく口に入れながら、淀屋はまだまだ話を続ける。
「お前さあ、僕がどうしていつも女子高生の姿に改造されるか、知ってるか?」
「そんなの知らねえよ」
 俺の答えに対し、淀屋は一瞬だけ息を詰まらせた。
「それは……お前が女子高生フェチだと思ったからだ」
「……なるほど、油断させやすいもんな」
 こればかりは納得せざるを得なかった。確かに4回目も5回目もたやすくアルバイトに引き入れてしまった。そういえば3回目もよく店に来る女子高生として俺の中で定着していたな。怖ろしい奴だ。
 首をひたすら縦に振る俺に、淀屋はたいそう満足げだった。
「やっぱりそうだよなあ。僕の判断は間違っていなかったわけだ。女子高生は可愛いよな、安田?」
「可愛い可愛い」
 これもまた同意せざるを得ない。未熟ながらも成長したあの姿には感銘を受けずにはいられないのだ。

「……なら、どうしてあの女と結婚したんだ?」

「え……?」

 場が凍る。淀屋の真剣な目。脚を閉じ、手の平を太ももに押し当て、肩のいからせ、顔全体でこちらを見た、真剣な淀屋の全身。俺に向けられている。。
「もしかして、僕から身を守るため? だったら、そうだったら僕の判断は間違ってたんだよね?」
「……何を言ってるんだ、淀屋」
「なんで女なんかになっちまったんだ、僕は……興味本位だったっけ、安田を確実に殺せると思ったからだったっけ……なんでなんだろ、なんで……」
 淀屋はぶつぶつと自分自身に質問を重ねた。よくわからないがなんとなくわかってしまう俺が、そこにはいた。
 こいつはどういうわけか俺に惚れてしまったわけだ。
 だから油断させるという理由もあって、色仕掛けを仕掛けてきたりしていたわけだ。何の嫌悪感もなく、それを実行できたわけだ。数十年も男として生きた人間が男性相手に色仕掛けなんてそうそうできるもんじゃないはずだ。
 淀屋はキッと眉を傾けた。
 そして腹の奥底から引きずり出したような声で、俺に言った。
「お前は、僕の母さんを殺した男だ。それだけは許せないというか、前置きにしておかなければならない。だけど、お前は一応刑務所に収監されて名目上の罪は償った。それに僕に何度も襲われた。十分すぎるぐらい酷い目にあったと思う」
 淀屋は下を向き、何かを隠しながら続ける。
「僕は……ああ、もういいや。ずるいけど今の僕は住友さおりってことにしてくれないか?」
「ああ、さっき言ってた今の名前か」
 紋別高校2年とは言っていたが本当に通っているのだろうか。
 淀屋はバシッと俺の手を叩き、顔を上げて赤い目で俺を見た。
「す、住友さおりは安田が好きです。その前の三井優奈も、さらに前の古河千夏も、それの前の岩崎早苗も、鮎川公子も、渋沢唯も、その前の……………………っ」

 淀屋は目を見開いた。

「……ってその前はそうだよね、そうだよね。うん。どうにもならない」
 そしてまたブツブツ言い出した。
「どうにもならないって?」
「うん、どうにもならない。どうしようもない。だってその前は殺人鬼だもんよ。やっぱり殺人鬼は殺人鬼だよね。そうだよね」

 ガサッ

 彼女がカバンから取り出したるは法令以内に収まった刃渡り4センチほどのナイフ。カウンターの高いイスを足で蹴り、重力のまま地上へと降り立った彼女はそれを持って、こつこつとこちらへと近づいてくる。
 どうしよう。妻は買い物に出かけていて上にはいない。息子が必死になってゲーム上のコンティオをリグ・コンティオに育てているだけだ。逆に危ない。
 どうすればいい。
 どうすれば。
「なあ、淀屋……新しい人生なんだろ、アレってさ」
「……そうだよ」
「お前、前世とかって信じる?」
「……あんまり」
 俺はその時思いついた、渾身の言葉を「彼女」に投げかけた。

「前世で殺人鬼だったからって嫌うヤツがどこにいるもんか!」

 彼女はなぜか笑った。声に出して笑った。
 そして反論した。
「違うぞ安田、5つ前だから5世前が、そう、5世前の僕が殺人鬼なんだよ」
 その言葉を俺は否定する。
「いやいや前世のアルバイトも俺を襲おうとしたじゃないか」
 彼女は言う。
「なら……お前はどうなるの? 僕の……5世前、淀屋肇の母親を車で轢き殺したわけだけど」
「それは悪いと思っているけど……人間っていつでも生まれ変われるもんだと思うんだよ、俺は。言い訳みたいで悪いけどさ」
 彼女はナイフをカウンターに置いて、言った。
「そりゃそうかもしれないね」

 俺たちはなんとなくその場のノリでキスをして、そこを妻に見つかって思いっきり殴られて、そのまま外に放り出された。
 住友さおり曰く「あの奥さんにはかなわない」だそうだ。
 だが「来世は負けない」とも言った。
 個人的には来世は普通に友達でいたいと思うところだが、何も言わずにおいておいた。

 実際のところ、本当の殺人鬼は俺だけだ。淀屋も渋沢も鮎川も岩崎も古河も三井も、そして住友も、誰も殺しちゃいない。
 だからこそ淀屋には謝っても謝りきれない。だがそれ以降の女子高生たちが来世だというのなら、そして本当の意味での「来世」があるのなら、次もまた友達でいさせてほしい、そのように願うしかない。
 その日、放りだされついでに俺たちは久しぶりに飲み明かした。





おしまいでございます。
感想等あればいただけると改良の余地が広がりますので嬉しいです。
23 : 42 : 04 | 小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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